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2022年6月28日 (火)

カザルスBACHの拡大コピー

BACHのチェロ無伴奏組曲はチェロ弾きのバイブルと言われ折に触れ弾いていたが、Carus出版社のTobelCasalsの解釈譜はわたしの人生を変えた。
従来もAlexanianによるCasals-Bachの解釈譜やFoley/SoyerによるCasals-Bachの解釈譜が出版されていたが、Tobel/BACHの情報量はその比ではなかった。楽譜を見ているだけでCasalsの息づかいが聞こえてくる程の内容なのだ。
わたしはこれまでのBACHのすべてのエディションを捨てTobel版に委ね、余生を全てこの版にかける決心をしてすでに2年以上経つが、日々がオドロキの連続である。
しかし、最も早く現れた老化は目の衰えである。当初はA4版の本書を譜面台に乗せて弾いていたが、楽譜には情報量が多くとても全てを読み取ることが出来ず苦肉の策としてB4版に拡大コピーして読んでいた。そのうちそれでも読み取りが出来なくなるまで見えなくなってしまった(もちろん老視・乱視用の眼鏡を数個作り直している)。そこで今回ついにA4版を倍サイズのA3版に超拡大コピーしてみた。
するとどうだろう、今まで読めなかったり読み間違えていた数字や記号が読めてきた。たとえば、開放弦を示す0とフラジオレットのoの違い、指番号の1、3、4、そして2、4の見間違い、さらには大変頻度の高い–、>(テヌートとアクセント記号)、1,! の表記等の正確な区別がはっきりしてきた。フレーズにしてもI、II、’、このように記号を使い分けて記しているので大変間際らしい。
おそらくTobel自身、この楽譜を見て演奏することは考えていず、あくまでも解釈本・研究書として書いたものでは無いかと思うのだが、それにしては大変見やすく全ての記号をその場で見たいから、この拡大コピーは大正解だった。ますます楽しみが増えた。
1冊を6つの曲ごとに6冊に製本(原本は6曲の全集) 
手前にあるのが原本で後方がA3拡大コピー

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A4版からA3版への拡大。大きさは2倍、拡大率は141%
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カザルスの解釈本として名高いAlexanianによるCasals-Bach、Foley/Soye、そしてTobel。
なお、Tobelは音楽之友社から日本語版が出版されている
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右から4冊目が音友版、左端がフルニエ版
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製本の苦労
普通の楽譜ならコピーしたもの(場合によっては両面コピー)をホッチキスで留めて製本するが、その場合見開きページが見にくいので、今回はホワイトテープ(ニチバン)で長い1本の帯につなぎ、最後に背をテープで留めることにする。
本楽譜の製本上最も難しいのはページ割り。一般のほとんどの楽譜は一曲もしくは一楽章ごとに譜めくり出来るように小節を割り振って作られている(これがレイアウトを行う版下業者の最大の頭の使いどころ)。
しかし、無伴奏組曲においてはどんな優秀な版下制作者でもそれに成功した楽譜は見たことが無い。というのも5番と6番の ”Prelude” は曲が長く音符も多いのでどうしても見開き2ページには収まらない(この版の場合5番は5ページ、6番は4ページに及んでいる)。
さらに厄介なのは、2番のAllemande は前半と後半の間に改ページをしなければならない。3番のCourante も前半と後半でページが違う。同じくBourree I とBourree II の間もページをめくらねばならない。しかもこの曲はD.Cを伴う。5番のGavotte も I と II の間に改ページ、さらに D.C 。(その点 Fournier版は5番のPrelude 以外は改ページの無いレイアウトが成功している)
このように、1曲を通して演奏することが出来ないのは大いに問題なので(楽譜を暗譜すれば済むことなのだが)、そこをなんとか製本課程ででできるだけ切り抜けようと試みた。
2番の場合はPreludeとAllemande の間にハサミで切れ込みを入れて、Allemande を弾き出す前にページの上部を先にめくっておく古典的な手法。
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次の写真のようにページに収まらない場合は余白を作って次のページに送る(Fournier版ではまるまる1ページ送っている)。
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さて、ここまでやると残すは5番と6番のPrelude だが、5ページと6ページを両開き2ページで譜面台に乗せるのはどう考えても不可能。残す方法はただ1つ、いままでは拡大コピーを想定していたが逆の発想で縮小コピーしてそれを見開き2ページに収めれば問題は解決する。しかし、この方法はほとんど全てを暗譜してのみ可能な方法なので、わたしが生きているウチは実現しそうに無いな!...
そんな苦労をして出来上がった楽譜。いいことずくめなのだが、問題もある。A4からA3に拡大したから紙の大きさは2倍、使用したペーパーは両面コピーでは無いから2倍+空ページ分なので、重量も倍以上。さらにA3を収める鞄が無いから山小屋に籠もるときはどうして運搬できるだろうか?
ま、このカザルス解釈譜がわたしに残されたテーマである。まだじっくり取り組む時間は残されていよう。今日の楽しみ、明日の楽しみがあることは有り難いことだ!...

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